17/07/24

【愛すべき10杯】久留米、濃きうどん旅に寄せて。


またかと思われそうだが、またである。「うどん旅」。コレを楽しみに生きている。今回食べ歩いたのは、福岡県久留米市。とんこつラーメン発祥の地として知られる久留米だが、実はうどん屋の方が少し多い。

***

豊穣の地、久留米。筑後平野と筑後川、沃野と水の恵みがここを小麦の一大産地にした。この辺りの総称を冠した「筑後うどん」はかつて家庭でも打たれ、椀物やおかずとして白米とともに食卓に上っていたと聞く。決まった型があるわけではないが、総じて柔らかく粘り気のある麺に私もいつからか虜になっていた。

久留米のうどん文化の面白さを伝えたい。そこで6月の梅雨の晴れ間、久留米へ。初訪問含めお邪魔した10軒の愛すべき10杯をレポートする。うどんを食べ歩いて得るものは、体重だけじゃない。

〔1杯目〕
久留米でのうどん旅の始まりは源流から
『みの屋 東合川バイパス店』

スタートは東合川の『みの屋』と決めていた。ここから独立した職人も多く、『みの屋』こそ筑後うどんの源流と呼ぶ人も多いからだ。鳥栖の本店ができたのは昭和43年、東合川は昭和58年で、過去10軒まで拡大した時代も。無料の高菜をつまみながらうどんを待つ。

ここの麺ときたらもうドンピシャに好み! 表面は少しとろみのある質感で、持ち上げるとつきたてのお餅のようにもっちり、びょい~ん。官能的な伸びやかさ、そして筑後うどんを筑後うどんたらしめる粘性。そのミノヤイズムに無我夢中で啜る。透き通った出汁は昆布や鰹節、雑節から引いたもの。舌に残る繊細な塩気に目を閉じ、しばし多幸感……なんてゆっくりしてる場合じゃないんだった。まだまだ旨さの一丁目。次へ。(画像=ごぼう天うどん450円)

〔2杯目〕
うどん界のオジー・オズボーン!
『久留米荘 津福店』

『久留米荘』とはうどん界のオジー・オズボーンである。その味はいい意味でエキセントリックで、ここまで中毒性の高いうどん屋もそうない。合わない人もいるかもしれないが、ハマると大変。そもそも店内に充満するにぼしグルーヴからして強烈。なんというか空間として濃い。白濁した出汁は、煮干しをぐらぐらと煮込むことで内臓のえぐみや苦み、一切合切を抽出したアクのかたまりのようなもの。誰もが敬遠するにぼしの雑味さえ味方にしてしまうアラワザ。

クラクラしながら出汁を啜る。「遠慮など子宮に置いてきたわ」と言わんばかりに破天荒なにぼにぼしさ。これは……美味しい! たしかに一口目は経験したことのないアナーキーさに一瞬舌がすぼまる。だが、すぐにクセになる。これにはふだん「味つけはちょっと薄いくらいがいい」派の私も完敗。久留米市内で見られる「提供前に麺を出汁で煮込む」スタイルもここが元祖で、にぼしのうまみをすっかり吸わせた麺ときたらもう。日本中探しても、こんな奇跡のうどんには出会えない。にぼにぼ、バンザ~イ!(画像=ごぼう天うどん450円)

〔3杯目〕
主役にするならこんなハンサム麺
『徳兵衛うどん 上津店』

食いしん坊じゃなくたって、この辺りではポピュラーな無料のおかず取り放題システムはちょっといい気分になれる。高菜、きんぴら、ポテトサラダ……お店ごとに面々は異なるけど、いずれもうどんが来るまでの手持ちぶさたから救ってくれるスーパーサブ。この日の『徳兵衛うどん』では、春雨サラダやひじきの煮物など6種類がずらり。

本店は平成元年創業。朝倉郡の『松屋うどん』で修業し、今では筑後うどん振興会代表としてこのエリアの顔を務めている。2~3日熟成させた麺はきりりと角が立ったハンサムタイプ。さぬきで好まれそうな見事な端正さがこの地ではなんだか新鮮に映ったりなんかして。ズズッ。凛と伸びやか。アジコやサバ、ウルメイワシなどを甘く仕立てた出汁にも負けていない。というか主役としての自負さえ感じさせる存在感。日に100玉近く持ち帰り用のうどん玉が売れると聞き、ですよねぇと頷かずにいられない。(画像=肉ごぼう天うどん720円)

 

〔4杯目〕
老舗製麺所が本気を出したらこうなる
『田中の麺家』

見渡す限りの田んぼ、田んぼ。『田中の麺家』の噂を聞きつけてやってきたのは、久留米の中心部から筑後川を下ること6キロほど、瓦で有名な城島地区。のどかな場所に建つ真新しい建物に胸が躍る。なにしろここは創業66年の田中製麺が一昨年、満を持してオープンさせたお店。

感じのいい女性がごぼう天を運んできてくれる。麺の表面は優しく磨いたようにすべすべ。お菓子の宣伝文句みたいだが、“外はふんわり、中はもっちり”がたった7~8ミリの世界で表現されている。観察したところで何も分かりやしない。でも、まじまじと見てしまう。平和な町にふさわしい平和なうどん。毎度のことだけど、この辺りにお住まいの方が心からうらやましい。ちなみにここ城島地区は、国内有数の日本酒大国である久留米の中でも酒蔵が多く、実に9もの蔵があるそう。となれば、ここを去らざるを得ないわたくしめのお土産は言わずもがな。ふふふ。(画像=ごぼう天うどん430円)

〔5杯目〕
その出汁、上等な和食の椀物のごとし
『たけ屋』

『たけ屋』の賑わう店内で“びょい~ん”と伸びる麺を見て、はっとした。コノカンジ、シッテルゾ。それもそのはず、ここは最初に紹介した『みの屋』から独立した大将のお店。どおりで柔らかさの中に独特のびょい~ん感があるのか。余談だが、私調べでは(かなり抜けがあると思うが)『みの屋』から独立した店は少なくとも4軒で、ここ『たけ屋』は昭和56年創業。

ズズッズズッ。ああ、この麺が都内で食べられたらどんなに幸せかと心から思う。おまけに琥珀色の出汁もしみじみ美味しい。昆布と鰹節をベースにした出汁に、思考を邪魔するような甘みをつけていないから、その味わいはとってもクリア。和食の椀物をいただいているかのような透明感に、むふふとにやけてしまう。すでに杯数を重ねていることなんてぽ~んと忘れさせてしまうシンプル・イズ・ベストな出汁に、深~くお辞儀。(画像=ごぼう天450円)

〔6杯目〕
次こそ教えてほしいごぼうの秘密
『麺酒房 たもん』

長崎・島原出身のご主人が営む『麺酒房 たもん』は昼はうどん屋(お、サラダバー発見!)、夜はお酒やつまみなんかを出して地元民の憩いの場に変身する。ほっそりとした麺は圧力釜特有のつるぷる感があり、噛まずともするすると胃に収まっていくオートマ感が快適。出汁は漁師から直接買い付ける自慢のアジコなど10種類の素材を見事にコントロール。どれもケンカすることなく複雑にうまみが重なっている。

で、ここからが本題。「あっまぁ~い!」。恥ずかしながらワタクシ、ごぼう天を頬張ったまま叫んでしまった。土っぽい風味を上回る、目の覚めるような甘み! まさかこれ、ものすごくお高いブランドごぼうなんじゃ?(ここで価格を確認してほっとする) 「そんなそんな! 切り方と揚げ方に気をつけてるだけですよ」と笑って答える奥さま。そう聞いても信じがたいほどの甘さ。結局、あまぁ~いごぼうの秘密は分からずじまい。しかも、こちとらうどんを食べに来ているというのに「これだけでもハイボールいけちゃうな。ここってお昼もお酒出してたっけ」なんて邪な考えを浮かばせる、罪なやつ。(画像=450円)

〔7杯目〕
変わりたくなくても変わる時代に
 『立花うどん』

1日1500人。尋常ではない数字を叩き出す東合川の『立花うどん』には、普通のうどん屋にはない世界が広がっていて面白い。まず、なによりお店がど~んと大きい。小上がりとテーブル合わせて136席もあり、厨房も規格外に大きく、なんだかちょっとしたフードコートのような活気がある。空気がじゃんじゃん循環し、店そのものが呼吸しているみたいだ。

「はは。でも、うちのオヤジが柳川の『立花うどん』から独立した当時は、今の4分の1くらいの大きさで。外でもいいからと、今も店の外にある台をテーブル代わりにして食べる方もいたんですよ」と二代目の龍寛さん。創業から35年、2回増築した。お店は成長したが、麺と出汁は創業の味を守っている。味の要の利尻昆布は1年寝かせてから使うし、麺は30分かけて釜茹でする。30分後の客足を予測しながらがんがん茹でるのも、長年の勘がなせる技。みんなが移り気なこの時代に変わらないでいるのは難しい。だが、そこには不動の美学がある。お店が建つのは久留米インターの近く。地元に戻り、あの大きな看板を目にしたときの久留米っ子の心情を思うと、ぐっとくるものがある。(画像=ごぼう天うどん440円)

〔8杯目〕
30年間、にこにこ突っ走ってきました
『正八郎うどん』

大将が『正八郎うどん』の暖簾を掲げたのは昭和61年、弱冠20歳のころ(ちなみに『徳兵衛うどん』と同じ朝倉郡の『松屋うどん』出身とのこと)。でも大将、そんな20歳で社長になるようなアグレッシブなタイプには見えない(むしろはにかんだ笑顔がキュートなお人)。「う~ん、当時はイケイケで勢いもあったのかもね。ふふ」。火災を乗り越え、今春建て替えたばかりの新店のお座敷は、小さな子が駆け回れるくらい広々。昼のピーク時は行列が絶えない人気ぶりだ。

30年前から手法を守り続ける麺は少し扁平で、とろけるような質感がたまらない。久留米のうどんはよく「粘り」といわれるけれど、それはどちらかというと内側の話で、表面のこの「とろみ」を大切にしているお店も多い。ちなみに、自称“ごぼう天党員”である私の調べでは、形状のバリエーションが豊富な福岡市に比べて久留米市ではオーソドックスなささがきが多い模様。本記事には未掲載の『つるや』や『大力うどん』など独自路線を行く店もあるが、過去訪問した内の7~8割はささがきのように思う。ではこちらはどうかというと、ご覧のとおりオニオンスライスのような美しい三日月形をしている。(画像=ごぼう天うどん430円)

〔9杯目〕
筑後のおかず無料文化の創始者
『あずみうどん 中央町店』

『あずみうどん』は私にとって久留米での初めてのうどん屋としてちょっとばかり特別な思いがある。といっても、数年前に取材で初めて久留米を訪れたとき(お世話になりました、久留米競輪)、夕方そして夜と連続で食べに行ったために、店員さんにお手本かってくらいの二度見をさせてしまった……という恥ずかしいものだけれど。何にせよ、筑後うどんへの興味のきっかけとなった店だ。

久留米を中心に展開する『あずみうどん』。会長の白石さんは最初に登場した『みの屋』出身で、久留米全域に根付く無料のおかず取り放題の文化を作った人物といわれている。もともとこの辺りでうどん屋でおかずを食べる習慣がなかったわけではないが、ずっと昔、白石さんが無料のつもりで食べた店が有料だったとかで始めたらしく、この日も煮物や漬物が7種類。麺は少しほっそりしていて、舌で口蓋に押し付けるとねちっと切れるような儚さ。久留米出身ではないが、少し懐かしい気持ちにさせてくれる思い出のうどんだ。(画像=ごぼう天うどん450円)

〔10杯目〕
ラストはうどん界の生き字引の店へ 
『めん棒』

ひたすら食べて、食べて、食べまくった2日間。最後に向かったのは、市内中心部の文化街(なんと小粋な響き)と呼ばれる横丁。ここにはうどん屋やラーメン屋が建ち並ぶ麺ストリートがあり、『めん棒』はその一角にある。息子さんとお店を営む大将は、久留米うどん界の生き字引のような存在。まったく、大将の口から語られる数々のエピソードに、お店にいる1時間で50回は「え~!」を漏らしたと思う。

そんな大将の手打ち麺は細いが輪郭しっかり、中心にかけてもちもち感が増すようにできている。出汁は、飲んだ後に食べてほしいからとしっかりめに引き、天然の塩気で迫る。これに揚げたてのごぼう天をじゅば~っと浸し、ごぼう天になったつもりで悦に入ってみたりする。新鮮な油が溶け込んだ出汁ほど旨いものはない。クセになる。呑兵衛じゃなくてもいちころデス。そして、何の話題だったか大将のマシンガントークの中にあった「7割くらいがちょうどいい。10割目指すとうまくいかんのよ。完璧目指すのは年老いてから」が、なぜだか心に残っている。(画像=ごぼう天うどん551円)

おしまい。ごちそうさまでした。

***

ちなみに、西鉄天神駅から西鉄久留米駅までは特急で30分ほど。うどん好きの諸兄には、博多うどんと筑後うどんのはしご旅もおすすめしたい。また今月22日、東京・新橋に筑後うどんを初めとする久留米周辺グルメを集結させたアンテナショップがオープン。こちらも後日レポートする予定。

では。

※表示価格はすべて税込み(2017年7月24日時点)

【店舗データ一覧】

1 『みの屋 東合川バイパス店』福岡県久留米市新合川1-5-40。0942-44-0743。木休。

2『久留米荘 津福店』福岡県久留米市津福本町1377。0942-39-6676。火休。(http://www.kurume.or.jp/udon/kurumesou.html

3『徳兵衛うどん 上津店』福岡県久留米市本山1-5-23。0942-22-8882。不定休。 (http://www.tokube.net/

4『田中の麺家』福岡県久留米市城島町六町原795。0942-62-2014。水休。(http://www.tanakaseimen.com/menya/index.html

5『たけ屋』福岡県久留米市津福本町1309-1。0942-33-3408。水休。(http://www.udon.today/

6『麺酒房 たもん』福岡県久留米市北野町高良1369-3。0942-78-0067。水休。(http://www.kurume.or.jp/udon/tamon.html

7『立花うどん』福岡県久留米市東合川5-6-1。0942-44-3939。火休。(https://www.tachibanaudon.co.jp/

8『正八郎うどん』福岡県久留米市小森野4-8-12。0942-33-9700。不定休。

9『めん棒』福岡県久留米市日吉町15-6。0942-38-0788。日祝休。※ディナータイムのみ20時~営業


スポンサーリンク